私は小学生までの感情の記憶がない。
事実の記録が残っている。
手に刺された鉛筆の折れた跡。彫刻刀で刺された腕。合唱するたびに倒れて保健室にいたこと。親に何も言えずに、耳が痛いって不登校になってたこと。
美人にばかり話しかけられた。
「かっこよくなったね」
「かわいいね」
女の子はみんな分からなかった。みんな親切だったと思う。男の子より、女の子と話しかけられた。
ボクは話さない、わからないから。
綺麗なひと、それは、分かっても、その心の分からなさばかりがあった。
中学生になったら、感情の記憶が少しある。
虐められてて苦しいことに気づいた。
気づいたら、彼の頬をはたいてた。
心が弱ると、僕のことが好きなサッカーが上手いヤンキーの腕の中に倒れ込んだ。何か荷物をとるふりをして。
彼は驚いていたけど、抱いてくれた。
3年生の時に陰険な虐めにあった。
考えた。
彼らは、ボクが反応するからよろこぶ。
能面をつけた。
苦しくなくなった。ボクは頭がいいって、思ってた。
食事の味がしなくなった。
高校へ進学、進学校、でもそれはボクの意思ではなく。親族の意思が大きかった。
高校は男子校。授業中以外イヤホンを付けていた。
Mくん、綺麗な顔立ちの男の子、Mくんだけ、わざわざ、イヤホンをつけて本を読んでいるボクに話しかけてくる。遠くからわざわざやってくる。
「なんの本読んでるの?」
「時計いいね。」
「僕も鉛筆とか小物に拘ってて、それいいね」
Mくんは、文化祭の準備の日、夜までかかった日。
Mくんが、ひとりで、渡り廊下で夜空の星を見あげていた。私は、とても綺麗な横顔に見惚れていた。彼はとても美しかった。
ボクが
「どうしたの」と
彼は
「うん、おにぎり食べてた。」
片手におにぎり。
「ひとついる?」
「ううん。」
しばらく
何も話さないで
2人きりで渡り廊下で、星をぼおっと眺めていた。
エム君が
「そろそろ行こっか」
ボクはこの人のことが好きだ、って。
大学に入る。
誰とでもした。男女関係なく。国籍も。
あのひと、はどこ?あのひと、ってだれ?
裏切られるなら、信じて信じて、裏切るのも、裏切られるのも。
あのひと、見つからなかった。いつも失うのは私で。
日記にはいつも「彼のひと」のことばかり。
だれのことを書いていたの。
ずっと、他人のボーダーラインがわからなくて、おどおどしてた。ゆっくりそっと、近づいたら、それをいつの間にか乗り越えていて、心を抉られてばかり。
だから いまはもう 人との関わり方が変わりました。他人に、入り込むのはもうしない。
ただ、ただ、そっと見てる。
彼が困ってても、そっと見てる。
私は、ずっと、子供の頃からせいちょうしてない。
Mくん、いまどうしてるかな。